Note

デザイナーの制作ノート

「歩育」や「ちょい抱っこ」のコンセプトに賛同し、そんなバッグがあれば間違いなく世のお母さんのためになる!と確信し、デザインを引き受けました。自身も子育て中の身、家事や仕事に追われながらも、どんどん大きくなる息子のことをもっともっと抱っこしてあげれたら、という思いがありました。 

依頼されたのは、歩き始めた子供を抱っこできるカバン。「普段はカバンにしか見えない!」「さっと抱っこできてすぐに降ろせる」 まずはこの相反する難題に取りかかりました。着想と試作を繰り返しましたが、どれも構造が煩雑で手順が多くなりすぎ、とてもさっと抱っこできるカバンにはならず、頭を悩ませました。「世の中に未だ存在しないものを作り出す」という厳しさを痛感しました。

けれどある日何気ない家事の中、空になった牛乳パックをたたんでいるときに思いました。「立体になってた容器を折りたたむと平面になる・・」 抱っこモードのときに立体となっていた座面が、カバンモードのときに平面になれば、普段は普通のカバンにしか見えないはず。そこから色々な紙パックを用いて試作を繰り返しました。

子供が座りやすそうな湾曲した座面で、且つ開閉もすぐにできる・・デザインの特徴でもあり座面としても機能しているフラップ(フタ部分)、ようやく辿りついた形がこのレモン型を折り重ねた形でした。この型のフラップを採用することで、「ただ折り畳むだけで座面を作る」ということに成功しました。

座面をレモン型にすることによってもう一つ、利点がありました。対面抱っこの際に子供の足を出すスペースがない課題があったのですが、これにすることによって解決したのです。ここから一気に商品化へと進みました。

N/ORNのロゴにも組み込まれている、もう一つの大きな特徴があります。それは、背中でバッテンになっているショルダーベルト。 あがった試作品で試乗させると浮かび上がったのが、歩き始めた子供をワンショルダーで抱っこするとあまりにも片方の肩に負荷がかかりすぎるということ。そこで、おんぶ紐の着想を得て、ショルダーベルトを背中でクロスさせ、荷重を分散させることにしました。難しかったのはカバンモードの時にいかにショルダーベルトをスッキリ見せるか。採用したのは強度とデザイン性を兼ね備えた大きなアイアンリング。このリングが二本のベルトをスッキリと見えるようにしています。

こうしてデザインも機能も一切妥協しない抱っこバックが誕生しました。そんなこと不可能だと言いながらも試行錯誤して試作を作り続けてくれた職人の方、プロジェクトメンバー、モニターの皆様に感謝の気持ちでいっぱいです。そして子育てに奮闘するママに、リスペクトの念を込めて、ママが母として女性として輝けるお手伝いができればこの上ない喜びです。

木下 奈都代 [ FIN ET AUDACE ]
profile: デザイン事務所勤務を経て、渡仏。ジュエリーのアトリエで働く。帰国後 FIN ET AUDACE を設立。「オブジェを持ち歩く」をコンセプトにレザーバッグやチャームをデザインし、作品を展開している。プライベートでは二児の母。
www.fin-et-audace.com

photo & text : natsuyo kinoshita (FIN ET AUDACE)